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火のとり 第2部 オール・アニメーション 1時間45分-2時間 第1部 壮図 時は二三xx年。人類はスペース・リープ航法という画期的な手段で、自由に宇宙を踏破し、闊歩している時代の物語である。 宇宙ハンターというのは、さまざまな惑星から珍稀な生物を捕獲して来ては注文主に引き渡す、狩猟兼動物商人といったところか。牧村はそれまでに二千種類以上もの宇宙生物を捕獲しては生物学者や博物館に売り渡し、しかも一切獲物にはキズをつけない主義から絶対の権威を誇る名人である。 その彼が地球連邦の移民局のロック長官に招かれて、彼に以来を受けるのは、たとえばどこかの移民星に、地球人を襲う怪物が居るから捕獲してくれとか、たぶんそういうたぐいの依頼だろうとたかをくくっていた。 とこごが、ロック長官から、極秘裡にたのまれたのは、宇宙空間に出没し目撃者も多いといわれる「火の鳥」と名づけられた生物体の正体を見極めることと、できればその生物を捕獲してほしいという注文であった。 しかもそのためには三〇万クローネという莫大な経費まで計上されていた。 牧村の一世一代のビッグ・ハントである。 ロック長官は、わずか十八歳でIQ360という超人的な頭脳で、未成年でありながらたった三年でう移民局の長官になり上がった男である。だから、並の人間には、彼の心の中を、意図を、おしはかることは到底できない。しかし彼が大金を払って個人的に極秘でたのむこのハントの目的が、通り一ぺんの好奇心や打算ではないことは明らかである。 牧村はいわゆる試験管ベビイ出身で、彼の家族はいない。もしいたにしても、何万光年もリープして、あちこちの星をわたりあるく彼には肉親などあってもないようなものである。 その彼にも、たったひとりの家族がいた。それは、女性型オートマトンのオルガである。 オルガはもともと運搬用労働ロボットとしてつくられた機械だったが、牧村は身の回りのことをさせるために彼女にこまかい家事や料理のできる装置をつけ、感情をもたせるための精密な電子頭脳を与えた。 そして、いまやオルガは、彼にとって娘であり、妻であり、万能のアシスタントであり、かけがえのない伴侶であった。 牧村はオルガを伴ってこの壮図のプランニングをねった。「火の鳥」は、たしかに宇宙のあちこちに出没していた。しかしその正体はまったく不明で、目撃者の資料はあいまいきわまる上に真実性も欠けている。ついに彼も手のうちようもなく投げ出してしまった。 彼は、せっかくの依頼だがこのプランは無意味であるとの報告をロックに伝えて、ことわるとした。 ところが、それに対するロックの反応は奇妙きわまるものだった。彼は狼狽し、ヒステリックに「火の鳥」を捕獲することを強要した。かれの地位を使って牧村を社会的に抹殺することもできると脅迫した。 彼は仕方なく、あてもない狩猟の旅に出かけなければならなかった。 出発の日、船の整備をしていると、突然、官憲に追われた男女がとびこんで来て、牧村の船で、宇宙へ逃してくれと頼んだ。 ことわるひまもなかった。牧村は二人に銃をつきつけられて船を出した。二人はレオーナとチヒロと名のった。重大犯のお尋ね者であることにまちがいない。二人は牧村に、うんと遠方の無人星にでも送っておろしてほしいとたのんだ。仕方がない。旅は道づれである。牧村、レオーナ、チヒロ、それにオルガの宇宙への旅が始まった。 レオーナは、牧村に、彼がロック長官から追われて消される立場であると打ち明けた。 レオーナの語ったロックの計画とは驚くべき内容であった。ロックは、地球が二三〇〇年代の終わりごろ破滅して、人類が滅亡することを、彼の超人的なづ脳でつくりあげたコンピューターの予測で知り、火の鳥を捕らえることは、そのための布石であった。火の鳥の生き血をのめば、永遠の生命を得られるという、猿田博士の秘密資料があったからである。ロックは、人類の破滅に際しても生命を長らえたいというはかない望みを火の鳥の血を手に入れることで達したかったわけだ。 この秘密を、猿田博士の助手という立場で知ってしまったレオーナ・ヒルマンは、たちまち抹殺されようとし、猿田博士も北極の無人境へと追放されてしまったのだった。 レオーナとその恋人であるチヒロは、やがてエデン17という小さな惑星へおり立って、そこで新生活にはいっていった。 ビヤンカは、鳥類が人類のような文明社会をきずいている星であった。平和と親睦と信条とする彼等は、牧村を友人として迎え入れた。彼はやがてポポヨラという名の鳥人の娘を探し出した。彼女は、ビヤンカの住民が神としてあがめているビヤシカールの神殿の巫女であった。彼女は、神殿の神体である「火の鳥」がどこにいるのかを知っている一人だという。彼女に近づくためには、牧村は、さまざまな手段を使った。そのうちに、彼女の清らかで温かい人柄に、彼は本当の愛を感じ始めるのだった。彼女は不思議な術で、彼に宇宙のさまざまな心理を見せた。それは生命の、生と死との調和の賛歌となって、彼の心に強い変調を来たすのだった。彼は、永遠の生命を求めるより、短い人生の中で最高の生き甲斐を見出すことこそ大切なのだと悟った。 ある日、突然オルガがポポヨラこそ、火の鳥であることを牧村に告げた。自分がためされていたのだと知った牧村は、逃げまどうポポヨラを追い、神殿を破壊した。火の鳥と牧村の戦闘になった。火の鳥は、超能力で牧村とオルガを嵐のふきすさぶ地獄の惑星へとばし、そこでさまざまな苦難に出遭わせたが、牧村はくじけなかった。彼は自分がたとえ死んでも、火の鳥の血を手に入れることだけが、生き甲斐と感じていたからだ。 ついに、牧村の意志に負けた火の鳥は、自分の血を牧村に与えて、地球へ持ち帰るようにすすめた。 牧村は、こうしてロックからの依頼を全うした。 ー つまり地球の人口増加による食糧危機や、過密都市の犯罪や公害を防ぐためだという表面上の口実だった。しかし、彼の本音は、二三xx年におこる人類滅亡のパニックが、宇宙移民の叛乱による全面戦争のためだと考えていたからである。それまで、宇宙のあちこちに散って生活していた移民たちは、このニュースを聞いて、地球へ戻れなくなることをおそれ、ぞくぞくと戻っていった。 しかし、それからの移民は地球へたどりつくまえに、防衛網にひっかかって抹殺されていった。 移民たちは怒りに起き上がった。地球を我々の手に奪い返すのだ。 移民連合が突撃隊を組織した。 移民の中に、れいのレオーナとチヒロの娘であるロミがいた。彼女は両親に死に別れ、まだ十五歳だが両親にきいた地球の美しい世界へ戻りたくて、移民連合にさんかしたのだ。 そこへ、たまたま火の鳥の血を持って牧村が戻ってきた。彼は偶然月の基地でロミに出遇った。ひそかに懐かしく思っていたチヒロに生きうつしの娘のロミを見て彼はロミを心から愛してしまった。 ロミに地球を見せるために、また、地球人のために地球を救う覚悟で、彼はロックに逆らって、移民連合に協力することにした。 突撃隊は、牧村の知っている防禦網の盲点をついて、地球へなだれこんだ。 迎えうつ防衛軍との壮烈な戦い。 移民連合の人人は多くが死んだ。 猿田博士は、ロックの信じている二三xx年地球破滅説はたぶん実現するといった。 猿田博士は、その日のために、どうしたら地球の生物達がこの破滅を生きのびて新しい地球を再び繁栄させるかに心を砕いてきたのだった。 そして、このドームを作ったのだ。 ドームの中には、世界中から、あらゆる動植物が集められ、飼育されていた。 彼らは冷凍睡眠で何百年も眠らされ、来るべき新世紀によみがえるのだ。 そして、その管理者は? 猿田博士は、その男こそ、火の鳥の血を持ち帰った牧村だと感じた。血をのめば彼は永遠に生き長らえてこのノアの箱舟の主人となれるのだ。 そのとき、全世界はおそるべき連鎖爆発に見舞われ、次々におこる核爆発のために、すべてが亡びてしまった。それはロックが作り、ロックがたのみの綱としていたコンピュータの叛乱だった。ロックは、叛乱をおこすのは人間だと思い込んでいたのだが、機械の叛乱に出遭ったのだ。 ドームにも機械やロボットの群れが襲い、猿田博士は死んだ。オルガも、牧村をかばって犠牲になり、破壊されて散っていった。 すべてが終わった静寂の中で、牧村はロミとともに、新世紀のアダムとイブとして、力強く生きつづけ、冬眠している生物達を守り続けようと誓い合うのだった。 (手塚治虫絵コンテ全集 第6巻 火の鳥2772 河出書房新社1999 709-711頁) |