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シナリオ 1

前文

二十二世紀のはじめ…
世界は統合されてひとつとなり
人間はみんな、元老院に属する
ひとにぎりのエリートたちによって
支配されていた

社会は非常に合理的になっていて
仕事に必要な人間は 生まれてから
おとなになるまて
政府の手によって その仕事に必要な
能力を持つよう育てられる

このものがたりは
宇宙開発の先頭で働くため
きびしい訓練をうけて
宇宙ハンターになった一人の男と
宇宙の神秘に生きる
謎の未確認生物2772との
闘いと 愛のものがたりてある

プロローグ

 カオスよりいでて、無限空間をどこまてもどこまても飛びつづける火の鳥。

 メインタイトル。
 クレジットタイトル。

1. 黒いパックに試験管胎児が 浮かんている(ミニチュア)

 試験管、ゆっくりまわりながらしだいに遠ざかり、闇の中に消えてゆく。
 スクリンにコンピュータの打ち出すデータが表示されてゆく。
 赤ん坊のピックアップ。キャメラ引くと、数本のマジックハンドが赤ん坊を調べている。
 スクリーンに表示されてゆくグラフ。
 シーツの上を這っている丸裸の赤ん坊。三方からキャメラアイが狙っている。三回止メがあって、そのつど地色が変わる。  S・E、シャッター音(三回)。
 スクリーンにデータが打ち出される。
 マジックハンドが差し出す、哺乳器の乳首に吸いつく赤ん坊。
 S・E、チュウ、チュウ。

2. ドームハウスの部屋

 中央にホログラブの管がある。
 その前に赤ん坊(九か月〜十か月)が座っている。
 透明なチューブの中に小鳥の姿が浮かび出る。
赤ん坊「トリ、トリ、コトリ」
 小鳥の姿が消えて小犬の姿が浮かび、小犬の姿が消えて魚が浮かび出る。
 手をあげ、指さして喜んでいる赤ん坊。
 チューブの上にロボットの姿が浮かぶ。
一瞬考える赤ん坊。
「ロボット!」
 チューブの中に奇怪な生物の姿。
赤ん坊「?」
 チューブの中に気味の悪い顔。
 びっくりして泣き出す赤ん坊。
赤ん坊「ウェーン」
 チューブの中に怪獣の頭が浮かび出る。
 激しく泣き出す赤ん坊。
赤ん坊「ウワーン」
 さらに奇怪な化け物がチューブの中に姿を見せる。赤ん坊はますますおびえて激しく泣く。
赤ん坊「ウェーン、ウェーン」

3. ドームの円形の居室

 赤ん坊(一歳ぐらい)がヨチヨチと歩いている。
 と、部屋が回りはじめる。
 しだいに回転が早まる。床にヘばりついている赤ん坊。
 ますます回転が早まる。
 ついに遠心力て部屋の壁に押しつけられ、目をむいている赤ん坊。
 部屋の回転が止まり、赤ん坊壁からはなれて床に落ち、よろよろと部屋の中央に這い出してくる。

4. 居室

 二歳ぐらいになった赤ん坊、ゴドーが積木で遊んている。
 床がガンガンと振動しはじめ、積木が崩れて跳ね上がり、ゴドーも一緒に跳ね上がる。
 しまいには部屋中のものがいっせいにポンポン跳ね上がり、ゴドー泣き出す。

5. 勉強部屋

 三歳ぐらいになったゴドーが、ティーチングマシンに向かって、お勉強をしている。
 ティーチングマシンのテレビスクリーンにリンゴが八つ出る。
 ゴドーがボタンを押すと7の数字が出る。
 ティーテンクマシンからマジックハンドが出て、ゴドーを持ちあげ、シートから尻叩きが出て、ゴドーの尻を三回叩き、もとに戻す。
 ゴドー、ちょっと考えて、ボタンを押すと数字の8が出てる。と、とたんに、ティーチンクマシンのあちこちから小鳥や、動物のオモチャが出て、手を叩いて囃す。

6. 居室・立体テレビがある

 画面に突っ込んて来る戦闘機群。パッと光って消える機影。
 スクリーンの前てピストルを構え、画面の戦闘機を狙って撃っているゴドー、四、五歳ぐらい。
 西部劇のガンマンのように早撃ちを見せる。
 と、突然戦闘機が一機、テレビの画面外に飛び出して来て、ゴドーのまわりを飛び回る。狙い撃つゴドー。逃げまわる戦闘機、向かい 側のテレビスクリーンに逃げ込む。
 そのスクリーンから、二、三機飛び出して来て飛び回る。
 立体画像にあわてふためくゴドー、やたらピストルを発射する。
一息いれるゴドー。
ゴドー「ハアハア」
 と、目の前に戦闘機が一機来て止まる。
 思わず、蚊を叩くように、両手でパシンと漬す。機体消える。
 キョトンとしているゴドー。

7. 居室

 飛行機のオモチャを持って遊んでいるゴドー。遊びまわっているうちに、転んで膝を痛め、泣き出す。
ゴドー「ウワァ〜ン」
 自動医療機が大急ぎで近づき、首が伸びて膝の傷をなめ、そり返って薬液を噴射し、マジックハンドが出て膏薬を張る。
ゴドー「エッフ、エッフ」
 しゃくりあげているゴドー。
 走り去る医療機、サーッと走ってゆく。
 ゴドーゆっくり起き上がり、オモチャを拾って手に持ち、遊びかけるがやめて、じーつとオモチャを見つめ、急に投げ捨てる。
 クッションのところまで歩いてゆき、指をくわえて寝ころぶ。うしろの小さなクッションを拾い、端を持って顔に当て、ちぢこまる。
 涙がひとしずくにじみ出る。
 そのまま、クッションを抱きしめて眠ってしまう。

8. 居室

 床に線が切れて、円筒形のパッケージキャリアが出て来る。
 気づいてゴドー(六、七歳)が振り返る。
「…!」
 キャリアの中からパッケージが押し出されてくる。
 驚いて見ているゴドー。
 キャリアが床に引き込んで、パッケージが残る。
 パッケージに近づくゴドー。
 パッケージのコントロールメカから光が出る。
 ゴドー、コントロールバーを取り出し、しげしげと見て、振ってみる。
 パッケージのコントロールメカが光り、ブザーが鳴る。驚いてとびずさるゴドー。
 パッケージ開きはじめ、中からおかしなトランクが現われる。
 トランク足を伸ばし、手を出し、首を突き出して、ロボットになる。
 オルガである。
 いろいろあって、ゴドーとオルガ仲良しになる。

9. キッチン

 オルガが食事の仕度をしている。
 ボールに材料を入れ、調味料を放り込み、指で加減を見て、手を突っ込むと、かくはん機のようにかきまわす。
 週間メニュー。オルガ、操作して定食メニューを取り出す。
 オルガ、テーブルについたゴドーの前に、定食(宇宙食のようなもの)が入った皿を置く。ゲンナリした顔のゴドー。
 ゴドー、食物を切って口に運ぶが、一口食べて噛んでいるうちに、フォークとナイフを動かすのをやめて、考え込み、肩をすくめて オルガを見上げる。
ニコーッと笑うオルガ。かぶっているコック帽をとると、頭の上に湯気を立てているパンケーキ。
 喜ぶゴドー。
 パンケーキをほおばり、Vサインを出してウインクする。

10. 居室

 ゴドー(十歳ぐらい)とオルガがダンスをしている。
 機械体操(鉄棒)をしているゴドーとオルガ。

 教育用ホログラフの前で勉強しているゴドー(十二、三歳)とオルガ。
 ホロクラブの図形どんどん変わっていく。
 ゴドーがそっとオルガの方を見て、手でほおに触れる。
 突然、ほおにチュッとキスをする。
 照れるゴドー。
 オルガ、目を丸くし、とたんに画像、火花と電光でパチパチ。
 ゴドー、ゆっぐりオルガの胸に頭をよりかからせ、オルガを見上げる。オルガは母親のようにゴドーをなでてやる。

 ベッドに入っているゴドー。傍に見守っているオルガ。
 ゴドー、大きなアクビをして眠りこける。
 オルガ、コントロールバーを出して、ゴドーに操作させる。
 ゴドーは目をこすりながら、起きて、ねぼけまなこで操作する。
 オルガ、ピンと立って動かなくなる。
ゴドー「お休み」
 明かりを消して、ベッドにもぐり込むゴドー。

11. ベッドルーム

 ぶら下がり機にたくましい若ものの腕。
 ダッと体を持ち上げ、何度も屈伸運動をする。
 突然、ブザーの音。
 振り向くと立派に成長したゴドー(十七歳ぐらい)、男らしくなっている。
 バーから手をはなし、ベッドの上のトレーナーを取り上げて部屋へ。
 居室のテレビ通話機の脇にオルガがいて待っている。通話機に赤いランプが明滅している。
 ゴドーがシートに腰かけて、計器盤を叩くと赤いランプが消えて、スクリーンに画像が現われる。
 ロックである。
ゴドー「人間だ!」
 指さしてオルガに叫ぶ。
 無表情なロック。
ゴドー「ハロー」
 手をあげて呼びかけるゴドー。
 無表情なロック。
 ふざけてアカンべーをするゴドー。
 無表情なロック。
 もっとふざけて、
ゴドー「べーッ」
 反応がないので困感して、オルガに聞く。
ゴドー「この人どうしたんだ」
 キョトンとしているゴドー。
 ロック、無表情に何かをしゃベリながら、背後の地図の中心の光点を示す。

 ドームのシャッター、次々(三重)に上がって、外光の中に出迎えのリニアカーが見える。

12. ハイウエー

 メトロポリスのハイウエーをゆく、リニアカー。車の中にオルガとゴドー。
 キャメラ、背後からフォローしながら、しだいにクレーン・アップ。高く上ってゆく。
 いっぱいに引いたところで、リニアカーの前に回り、しだいに寄って、フロントから脇に回り、シートのゴドーとオルガの背後へ。
 物珍し気にあたりを見回しているゴドー
 二人の肩越しに、フロントガラスを通して科学センターが見えてくる。
 科学センターT・U。

13. 科学センター・ホール

 巨大なドーム状の天井をもった、科学センター・ホール。中央には光り輝くオブジェがある。
 ゴドーとオルガが入って来る。
 ゴドーの腕につけた、ガイドビーコニーに導かれて、ロックのところへ向かう二人。
 と、声。
ボルカン「おい、待て」
 宇宙パイロットの制服をつけた大男が立って、呼びかけたのだ。ボルカンである。
 ボルカンはオルガを指さしていう。
ボルカン「そっちの女はロボットじやねえか!?」
ゴドー「そうですが」
ボルカン「ここは、ロボットを持ち込んじゃいけねえ場所だ。外へ置いてきな」
ゴドー「オルガはばくの家族だし、付き添いです。だから…」
ボルガン「へっ、家族だと! (ぐーっと、迫ってくる) 坊や、もうママゴトの年は過ぎたんだろう。これは規則なんだ。そいつは、ロッカーヘ預けろ」
オルガ「ゴドー、オルガは」
ゴドー「オルガは荷物じゃない! 大事な友だちだ!」
ボルカン「そうかい、そうかい」
 ゴドーに歩み寄って来るボルカン。さっとゴドーの腰からコントロール・バーを抜きとって、ボタンを押してスイッチを切る。
ボルカン「これならどうだ」
 あっという間に、オルガ、トランクになって床に転がってしまう。
ボルカン「ただの荷物だ。文句あるまい、ブブブ、ブブブ… いっとくがな、規則を破ればつまみ出されるんだぜ坊や、ウハハハハ…」
 ボルカン、肩をすくめ、手を広げてせせら笑って去る。
 トランクに手をかけて見送るゴドー。

14. 科学センター・屋上広場

 広場に宇宙パイロット訓練生たちが、ズラリと整列して、元老院議長イート卿の演説を聞いている。ゴドーもその中にいる。
イート卿「訓練生諸君! わしは元老院議長のイート卿である。諸君は、生まれながらに宇宙パイロットとして約束され、世界中からこの科学センターに集められた人材である。
 コホン (セキをする)。
 諸君はここで一年間、みっちり研修と訓練を重ね。ウー (腹をゆすり上げ、なでまわして) めでたく、宇宙へ飛び出す資格を得るわけだ。しかも、成績優秀な者には、元老院から特別任務が与えられる。フーッ (苦しそうに息をつく) 諸君を指導してくれる教官は、そのボルカン大尉である」
 訓練生たちの整列の斜め前に立っているボルカン。
 右を見 (壇上のイート卿)、左をにらみつける。
イート卿「(手でゆっくり腹をなで) 宇宙開発の使命は、諸君にかかっとる。しつかり勉強してくれたまえ、以上」
 演説終わると、クルリと背を向けて、さっさと壇をおりて行ってしまうイート卿。
 これを見終わったボルカン、整列した訓練生たちの前を歩きながら、
ボルカン「聞け、オレは貴様らガキのお守りをするために、つとめてるんじゃねえ、貴様らを徹底的にしごいて、骨のある宇宙男にしたて上げるためにいるんだ。甘ったれるヤツは、容赦しねえ、半殺しにしてやる。肝に銘じておけ!」
 ボルカン、列の中のゴドーに気づいて、
ボルカン「貴様か! ハ! 入学式にロボットに付き添われて来た坊ちゃんは… (ぐっと身をそらし) せいぜい面倒みてやるぜ、ウ ブブブブ、ウハハハハ 〈歩み去りかけ、ひょいとうしろを向き、ヌウーッとゴドーに寄って) ヒヒヒヒ…」
 目を血走らせて笑うボルカンのアップ。

15. 科学センター・射撃訓練場

左右に揺れ動く標的を狙って、レーザーガンを撃ちまくる訓練生たち。
 レーザー光が標的に命中したり、はずれたり。
 ゴドーも銃を構えて撃っている。
 見守るボルカン。
 レーザーが命中して穴のあく標的のダミー。
 撃ちまくるゴドー。
 ダミーの首がふっとぶ。
ボルカン「撃ち方やめい」
 いっせいに射撃をやめる訓練生たち。
 訓練生たちの前の表示板に成績が数字ででている。
ボルカン「なんだ、そのだらしねえ射撃ぶりは!… 二発… 三発! 貴様たちの命中率は、それだけか! 泣きたくならァ」
 と、ゴドーの表示板を見る。
ボルカン「十一点… 坊や、でかしたぜ」
ゴドー「坊やではありません! ゴドー・シンゴです」
ボルカン「そうかい… じやあ、ひとつゴドー坊やの腕をもう少し見せてもらおうか」

16. 科学センター・トレーニング場

 トレーニング場いっぱいに飛び回り、突如襲いかかっで来る光の玉を相手に、大奮闘をするゴドー。

17. 科学センター・トレーニング場

 宙を飛ぶ椅子に乗って、そのスピードと旋回に耐えながら、標的を撃つ訓練をするゴドー。

18. 科学センター・耐火訓練室

 通路の両側から激しく噴き出す炎をくぐり抜け、走り抜ける訓練をしているゴドー。
 耐火ヘルメットの中に苦しそうなゴドーの顔。
ゴドー「ハァハァ…」

19. 科学センター・トレーニング場

 ゴドー、ガンキャリアに乗ってトレーニング場に出てくる。
一方の壁にある口から、たくさんの宇宙生物がトレーニング場に追い込まれてくる。
 驚くゴドー。
ゴドー「あっ…!」
 トレーニング場のあちこちに身を寄せ合ってかたまっている宇宙生物たち。
 ボルカンの声がマイクを通して聞こえる。
ポルカン「何をしている、殺せ!」
ゴドー「あれは人間だ」
ボルカン「気にするな」
ボルカン「シリウス12番星のケダモノだ。いくら殺したってたくさんいるから心配するな」
ゴドー「ケダモノじゃない。あいつらは人間だ」
 抱きあってふるえている宇宙人もいる。
ボルカン「どうした… さっさと撃たんか。たとえ、人間と名のつたって、我々から見れば、ケダモノ同然なのだ、撃て!」
 銃の狙いをつける。銃口の動きにつれて逃げまどう宇宙人たち。
ゴドー「…だめだ… 殺せない! おびえて、ふるえてるものを殺せるか!」
ボルカン「いくじなしめ。宇宙に出て、宇宙人一匹殺せんヤツに何ができる! さあ、簡単なことだ、撃て!」
ゴドー「いやです」
ボルカン「腰抜けめが… どけ、手本を見せてやる」
 ガンキャリアに乗ったボルカンがヌーッと姿を現わす
ボルカン「見てろ」
 くわえたタバコをプイと吹き捨てて、銃を撃ち出す。
 あっという間に、粉みじんにふっとぶ宇宙人たち。
 つづけざまに銃を発射する。次々に粉砕される宇宙人たち。
 悪魔のようなボルカンの笑い顔。
 逃げまわる最後の一人を、無残にも撃ち殺す。撃ち終わって息をつくボルカン。
ボルカン「フーッ (向き直って) どうしたゴドー、ふるえているのか、ウヒヒヒヒ…」
 うなだれているゴドー。
 トレーニング場には、宇宙人の死屍累々。

20 ゴドーの寝室

 夜明け前。ベッドの中でゴドーがうなされている。
 カーテンが開いて、オルガが入って来る。
 そっとベッドの傍に寄るオルガ。
オルガ「ゴドー… どうしたの?」
 はっと目を醒ますゴドー。上半身を起こし、しげしげとオルガを見てつぶやく。
ゴドー「おまえか… オルガ… おまえも夢を見ることがあるかい?」
オルガ「ない…わ」
 ベッドの脇に膝をおとすオルガ。ゴドー、オルガの肩に手をかけて。
ゴドー「オレは… オレはいやな夢を見たんだ。オレが宇宙ハンターになって、よその星の人間と闘って、どんどん殺していく夢だ」
オルガ「それ、ほんとじゃないわ。オルガ、ゴドーと一緒、いる。ここ宇宙では、ありません」
ゴドー「夢なんだよ… 夢ってのは… つまり… 人間の心が… 眠っている間に…。ロボットにはないもんなんだ」
オルガ「オルガ、わからない。でも、ゴドー苦しそう。なおしてあげたい」
 ベッドに腰をかけて、窓の外に広がる夜明け前の街を見ているゴドー。
ゴドー「気持はうれしいけど… どうにもならないよ。オレは… もう引き返すことができなくなっちまった。そうだ… オレは… 宇宙パイロットなんかじゃなくて… もっと無感情な、心の冷たい人間にされてしまいそうだ。
 こんな暮らしに、だれもかも満足してるのか… 締めてるのか… でもオレは我慢できない。オルガ… オレはもう我慢できないよ!」
 じっとゴドーを見守るオルガ。

21. 料学センター・玄関前

 ゴドーとオルガの乗ったリニアカーが、すべりこんでくる。
 ゴドー、車からおりる。
ゴドー「オルガ、車をたのむよ」
 科学センターの玄関に向かって歩いて行くゴドー。
 左手にボルカンが、自分の車に寄りかかっている。
ボルカン「おい、ゴドー」
ゴドー「…」
 立ち止まるゴドー。
ボルカン「貴様、教官に対する礼儀を知らんようだな」
ゴドー「あなたは残忍な人だ。尊敬はしません」
ボルカン「生意気をいうな。ヒヨッコ」
 ボルカン、腰のホルスターからピストルを抜いて構え、発射する。
 ゴドーの足もとに命中。
ボルカン「善人ぶりやがって」
 ボルカン続けて発射。
 ゴドー、とびずさって弾を避ける。
ボルカン「ケダモノも殺せねえ、腰抜けの性根を叩き直してやる。こい」
 飛び上がって車に腰をかけ、ピストルを振りまわしているボルカン。
ボルカン「ここベ来い! 来いってんだ。…ン?」
 ぐーっと車ごと持ち上がるボルカン。
ボルカン「ウォッ? なんだ」
 車の下に、両手で車を差し上げているオルガ。
ゴドー「やめろ! オルガ、何をするんだ」
ボルカン「アワワワ…」
ゴドー「オルガ、早くおろすんだ」
ボルカン「おろしてくれえー」
 オルガ、ボルカンがしがみついた車を差し上げたまま走り出す。
ボルカン「やめろーっ!」
 すさまじいスピードで走るオルガ。
ボルカン「おろせーっ」
 オルガ、走りつづけ、そのまま橋のらんかんを駆け登る。
ボルカン「ウワ… ウワ、やめてくれ。ワァアア」
 らんかんのテッペンに車を置く。車、らんかんのテッペンでぐらぐらとゆれている。
ボルカン「頼む……おっこっちまうよお! 助けてくれーっ」
 オルガ、車をそのままに、らんかんから跳び降り、ハイウエーを走って帰路につく。
 通りがかりの車の中から、走っているオルガを見つけて怒鳴るランプ。
ランプ「どけーっ、ここは車道だっ、ロボットは走るなーっ」
 黙って走りつづけるオルガ。
ランプ「聞こえねえのか、バカ!」
 オルガ、走りながら車に変身し、あっという間に走り去る。
 オルガの車、科学センターの玄関前にすべり込んで釆て止まる。

22. 科学センター・ホール

 ゴドーが入ってくると、向こうから若い娘が四人ばかり、おしゃベリをしながら歩いてくる。
 何気なく娘たちを見るゴドー。その中の一人に心ひかれ、見つめてしまう。
 イート卿の娘レナである。
 階段を降りかかる娘たち。と、その足の聞から一人の宇宙人がとび出してきて、娘たちの足もとをさっと掃き、ふとこちらを振り向いて、ゴドーと目を合わせる。
一瞬、ハッとして恥ずかしそうなゴドー。
 おしゃベリをしながら近づいて来る娘たち。
娘A「ホホホホ…」
娘B「レナのお父さまって」
娘C「ロックさんを、救世主扱いなんですって…」
レナ「…」
 レナ、ふと自分を見つめているゴドーに気づく。まわりのおしゃべりが急速に遠のき、あたりの空間も非現実的なものにかわる。
 見つめ合うゴドーとレナ。
 いくばくかの時が流れ、ハッと我にかえるレナ。
 すれ違うゴドーとレナ。
 遠ざかるゴドー。
レナ「あの人、だれ?」
娘A「さあ、知らないわ。パイロットじやないかしら… でも一人前じゃないみたい」
レナ「ここで訓練をうけている方かしら」
娘B「ウフフ… おかしいわレナ。あんな人が気になるなんて」
娘C「そうよ、身分の低い宇宙パイロットじゃ、相手にならないわ」
レナ「そうね」
 去って行く娘たち。
 立ち止まって振り返り、見送るゴドー。

23. 料学センター・教室

 休み時間のひととき、数人の訓練生と談笑しているゴドー。
ゴドー「エンジ色のドレスを着てる、黒っぽい髮の娘さ… だれだい?」
A「そのコなら、元老院のイート卿のお嬢さんだよ。たまにこの科学センターへ来てるからな」
ゴドー「なんて名?」
B「レナだよ」
ゴドー「レナ?」
B「そのレナがどうしたってえの?」
ゴドー「美人だなあ… そう思わない」
A「ヒュー(口笛) おまえ単細胞だなあ、まちがってもあの娘を好きになったりするなよ」
ゴドー「なぜ?」
C「あいつら階級がケタちがいだ。ひどい目にあうぜ、手を出すなよ」
ゴドー「なぜ、ぼくらと身分がちがうんだ」
A「知らんよ、そんなこと。元老院はさ、世界中支配してるだろ… オレたち禁止されても、あいつらには許されることがいっぱいあるんだよ」
ゴドー「どんなこと?」
A「一般の市民は、町の外に出るには厳重な検査がいるだろ」
B「あいつらは自由に郊外ヘ行けるんだ」
C「郊外にはあいつらの特別クラブがあるっていうぜ」
 机にとりつけられたコールサインのランプが明滅して、ブザーが鳴る。ゴドーがスイッチを押すと、スクリーンにボルカンの姿。
ボルカン「ゴドー、おえら方が呼んでいる、来い」
ゴドー「どこヘですか?」
 教室の入り口からロボットが二人、ずいと入って来る。
ボルカン「ロボットについてくるんだ」
 ロボット二人について、科学センターの廊下をゆくゴドー。

ロック長官の会見室

 広い会見室中央に立っているゴドー。壇上、大きなスクリーンを背にロックが傲然と構えている。
ロック「わたしはこの科学センターの長官ロック・シュラーク、顔は知っているだろう。
 ゴドー・シンゴ、おまえの研修成績を見た。大変優秀な成績だ。したがって今日からわたしの直属として、特別任務を与える」
ゴドー「特別任務? 何をするのですか」
ロック「一年後に、おまえは宇宙ヘ出発する。そしてコスモゾーン2772と対決する」
ゴドー「コスモゾーン2772? それは、いったいなんです」
ロック「正体はわからん。恐ろしい怪物だ」
ゴドー「怪物ですって?」
 ロックの背後のスクリーンに焦げたロケットがうつる。
ロック「これがその悪魔と出合った調査隊のなれの果てだ」
 スクリーンに、ロケットにあいた大穴がうつる。
ロック「とけて大穴があいていた」
 別のロケット。
ロック「これはその前のハンターのだ。すっかりとけて隕石のかけらのようだった」
 わけのわからない画像。
ロック「ものすごい放射線のために、ほとんどの映像が真っ白に攪乱してしまっている」
 かすかに鳥の姿らしきものが見える。
ロック「調査員ボーダが死ぬ前に送ってきた怪物の唯一つの写真だ」
ゴドー「鳥ですね」
 わけのわからない別の画像。
ロック「そうだ、地球人の目には鳥のような姿に見えるという。だが他の宇宙人の目には、それぞれ別のものに見えるらしい」
 さらに別の画像。
ロック「つまり、この怪物は実体がないのかもしれない。だが、厳然として存在しているのだ。犠牲者がその証拠だ。(画像消えて) 今度はおまえがそれを見つけて、対決するんだ」
ゴドー「対決する」
ロック「どんな方法でもいい、必ず勝ってこい… ただひとつ条件がある。…それは、そいつを殺してはならん。必ず生け捕りにして、地球に持って帰ることだ。それが条件だ。
 そのためには、どんな便宜でも与えよう。
 もし成功したらおまえを元老院のメンバーにしてもいいと、イート卿もいわれている」
ゴドー「どんな便宜でも、はかってもらえるんですか…」
ロック「そうだ、希望があるならいうがいい」

25. 郊外から海外ヘ

 イメージ。
 元老院の建物。
ゴドー(Off) 「行動の自由がほしいんです」
街の情景。
ロック(Off) 「どういうことだね」
 メトロポリス全景。
ゴドー(Off) 「自由に街の外ヘ出てもいいという許可がほしいんです」
 街はずれ、いちめんの砂漠。
ロック(Off) 「街の外? 街の外には何もありはしない」
 (カメラ、T・Bを繰り返す)

 砂漠のど真中のハイウェーを突っ走る車。
 ゴドーとオルガが乗っている。

 海。カメラ、引くとゴドーとオルガが海岸に立って海を眺めている。
ゴドー「きれいだ」
 海風が二人の髮をなぶる。
ゴドー「どう? オルガ」
オルガ「き、れ、い、…オルガ、わかりません」
ゴドー「長い長い間に、地球はだんだん荒れ果てて、今は資源がほとんどないって習ったけど… こんなに美しい海が、まだ残ってたんだなあ。(ふと、見て) あすこに何かあるぞ! なんだろう」
 はるかの海岸に緑色が見える。
オルガ「オルガ見てきます」
 オルガ、ジェット機になって空中に飛び上がり、緑色の見える海岸めざして飛び去り、しばらくして帰ってくる。
 飛び帰って来たオルガ、ゴドーの上空からゴドーの頭上に何やら落とす。
 ヒラヒラと落ちてきたものは、花である。
 ゴドー、その花を拾いあげて。
ゴドー「花だ!」
 ハッと思いついたように急いで単に戻り、先導するオルガのあとを追って緑の森に向かう。

26. 元老院クラブハウス

手入れの行き届いた美しい庭園。緑したたる樹々。
 花壇には色とりどりの花が咲き乱れている。その一角に豪華なクラブハウスが建っている。
 生まれて初めて見る花や樹に驚き、あまりの美しさに茫然としながら、花壇の間を歩いているゴドー。
 ついにしゃがみこんでつくづくと花を眺めている。
 ふと気づいて、目をあげるとクラブハウスのほうを見る。と、薄ものをまとった一人の女性が、手すりに手をかけてこちらを見守っている。
 レナである。
 驚いているレナ。
 ゴドーもレナに気づいて体を起こす。
 石段を降りてゴドーに近づいて来るレナ。
 すっかりあがって、あわててしまうゴドー。
ゴドー「あ、あのう… 花を見てたんです。花」
レナ「アマリリスですわ」
ゴドー「え? ええ…」
レナ「お花、お好きなの?」
ゴドー「つまり… ぼくは… 花を… 初めて見るんです」
レナ「え?」
ゴドー「テレビや絵本でしか見たことがないんです」
レナ「ほんとう?」
ゴドー「ぼくのところには、こんなものはひとつもありません… 本当にあるんですねえ、あるところには!」
レナ「ええ、ここにはなんでもありますわ、小鳥やリスや蝶も!」
 レナ、花のそばにしゃがむ。
ゴドー「小鳥! リス? ウワァすごい!見たいなあ」
レナ「この裏の公園ヘ行けば…」
 と、レナ、花を一輪手折ろうとする。
ゴドー「だめだ! 花を折っちゃいけない!」
 と、レナの手を押さえる。
レナ「どうして?」
ゴドー「花が死んじゃう」
レナ「あなたにあげようと思ったのよ」
ゴドー「いけません」
 ゴドーの手、レナの手を押さえたまま。レナ、ふとそれに気づいて、ポッと頬を赤らめる。
 ゴドーもそれに気づき、赤くなって急いで手を引っ込める。
レナ「あなた研修生でしょ。宇宙パイロットの…」
ゴドー「…そう…」
レナ「どうしてここヘいらしたの、ここは元老院のクラブハウスよ」
 樹陰から語り合うゴドーとレナの姿を見守るオルガ。
 オルガの目、異様に輝いている。
 と、機械的な足音が近づいてくる。
 横を向いてハッとするオルガ。さっと変身して藪の陰に身をかくす。すぐそばをロボットの足が通過する。
レナ「わたくしレナよ」
ゴドー「ゴドーです。ゴドー・シンゴ」
レナ「ゴドー… すてきなお名前」
 突然、ゴドーの腕がぐいとつかまれる。はっとするゴドー。振り返って見る。
 警備ロボットである。
ロボット「アナタハ…」
ゴドー「何をするんだ」
 腕をふりほどこうとするが、ロボット、ガッチリとつかんではなさない。
ロボット「アナタノ身分デハ、立チ入り禁止地域二ハイッテマス。大至急退去シテクダサイ」
ゴドー「わかった、はなせ! 悪気で入ったんじゃない!」
レナ「やめて! この方は…」
ゴドー「いいんだ… 身分違いってことを忘れていた。出て行きますよ」
レナ「あの… 何かわたくしにできることは…」
ゴドー「ありがとう。きれいな花を見られてよかった… でも… キミのほうが、よっぽど美しい」
 警備ロボットに連れ去られるゴドー。
 じっと、思いをこめて見送るレナ。

27. 科学センター・格納庫

 スペース・シャークが格納されている。
 ロックとゴドーが入ってくる。
ロック「これがおまえの艦だ。(スペース・シャーク開口部を示して) ここから火の鳥を積み込む。ワープ航法で五〇〇〇〇クイムまで出せる」
 スペース・シャークの機内に入る二人。
ロック「コックピットは、命令を下すだけでいい。ただ、火の鳥との対決法は、おまえの腕しだいだ」
コドー「アシスタントは?」
ロック「アシスタント? そんなものはいない。おまえ一人だ」
ゴドー「オルガはどうする。せめてオルガはオレの助手として連れて行かせてほしいんです」
ロック「オルガ? まだあんな育児ロボットに甘ったれてるのか」
ゴドー「オルガはただのロボットじゃない。オレの忠実で誠実な助手で 友だちなんだ。ある意味では、人間以上なんだ」
 ロック、ゴドーの言葉をさえぎるように。
ロック「出発は一か月後! その時、おまえは一人で搭乗する。他は一切許さん! おまえが出発した後、あのロボットは解体する。役目が終わったからな」
ゴドー「オルガに手を出すな! オルガだけはオレのものだぞ… たとえ、元老院の長官だろうと… ただじゃおかないぞ!」
ロック「(ゴドーの肩に手をかけて) なあゴドー。これは忠告なんだよ。わたしのいうことを聞いたほうがいい。へたに我を張ると反抗罪で、強制労働キャンプに送られるんだぜ。おまえにとっていいことを教えてやろう。
 本当のことをいうと、わたしと、おまえとは兄弟なんだ」
ゴドー「なんだって…」
 ロック、ゆっくりと眼鏡をはずして、素顔を見せる。
ロック「どうだ、似てるだろう」
ゴドー「どういうことです?」
ロック「知っているとおり、わたしたちは試験管ベビーだ。生まれた直後、コンピュータが精密な適性検査をして、それぞれの階級により分ける」

 イメージ。
 赤ん坊の入ったカプセルがずらーっと並んで移動している。カプセルの一つが列から抜き出されて、別のほうヘ運ばれて行く。
ロック「おまえとわたしは兄弟だったんだが、知能指数や、いろいろな検査の未に、わたしは政治家、おまえは宇宙パイロットに運命づけられたんだ。
…そういうわけだ。兄さん… いや… 弟かな… 悪いようにはしない。労働キャンプだけは行くなよ。あそこは地獄だぜ」


28. 元老院会議場

 スクリーンに写っているマントル対流エネルギー工事の労働キャンプ。
ロック(Off)「ここは熱地獄です。不平分子や、反逆者が五十万人も働いていますが、事故も多いし、体にもよくありません。しかし、作業は捗っています」
 スクリーンの前に立って演説しているロック。
ロック「この地球に残された、最後の、唯一のエネルギーとして、この工事がぜひとも必要なのです」
 議席のイート卿。頼もし気にロックを見守っている。
イート卿「しかし、安全性の問題は、どうなのかね。ロック君」
ロック「それはすでに、ご説明申し上げたとおりです。建設工事さえ終われば、絶対保証できます。ほかにご質問は?……ではこれで
壇を降りるロック。
 議員たち。ぞろぞろと立ち上がる。

29. 元老院・サロン

 憂いを含んで椅子に腰かけているレナ。傾でピンチョが、気づかわしげに見守っている
 ピンチョ、胸につけたタルから、そっとラッパをとり出し、レナをチラッと見て、吹き始める。
 楽しい音楽 (ピンチョのテーマ曲)。
 しだいに調子が出てくる。
 あちこちを叩き、踊りまわって演奏するピンチョ。
 レナもつられて、憂い顔がしだいに明るくなり、笑顔を見せる。
ピンチョ「レナ、元気でてよかったね」
レナ「ありがとう。ピンチョ」
 サロンにイート卿とロックが入ってくる。
 レナと抱き合ってあいさつするイート卿。
イート卿「レナ、ロック君がな、婚礼の日どりのことで、おまえに相談したいということで、見えられたんじゃ」
 ロック、レナ、イート卿、席に着く。
ロック「来月の一日はどうだね。レナ。わたしの仕事も一段落するし、返事を待ちくたびれてしまってね (ロック、サービスロボットを手で招く)」
レナ「…」
 サービスロボット、飲みものを出して、テーブルの上に置く。
 ロック、グラスを上げて
ロック「レナ、我々のために乾杯」
 うつむいているレナ。
イート卿「レナ、どうした」
ロック「長官夫人レナのために、乾杯」
 しぶしぶグラスを上げるレナ。

30. 自然公園

緑豊かな大木の茂る自然公園の池辺。
 木の葉越しに陽の光がキラキラとこぼれている。根元の草の上で語り合う二人。ゴドーは寝ころがり。
 レナは腰をおろしている。
ゴドー「こんなところ、初めてだ! この地上に、こんなところがあるなんて知らなかった…」
レナ「ここは元老院が管理しているの」
ゴドー「すばらしいところだ…」
 レナ、だまって傍の野花をそっとなでつづけている。
 ゴドー、ぐいと身を起こして。
ゴドー「しかし、オレはこんなところにいるとダメになってしまう。オレは… 火の鳥と闘いに宇宙ヘ出て行かなきゃならないんだ。
 オレには任務がある! 元老院からの絶対命令だ。そのためにオレは生まれ、訓練させられてきたんだ」
 レナの手に花アブが止まる。レナ、アブの止まった手をそっと寄せているが、つと。
レナ「死んでしまうわ!」
ゴドー「死ぬのはこわくないさ、ただ犬死にはしない。きっと火の鳥を仕とめてみせる」
レナ「(思い切ったように) ゴドー、出発しないで… お願い…」
 と、とりすがろうとするが、ゴドー、すっと立ち上がる。
ゴドー「楽しかったよ… オレはそろそろ帰る時間だ」
 キャメラ、T・B、カット尻F・O

31. ゴドーの寝室・夜

 窓わくに腰をかけてもの思いにふけっているゴドー。
 片隅にオルガが立っている。
オルガ「何を考えているのですか、ゴドー」
ゴドー「何も考えていやしないさ」
オルガ「オルガ、わかります。あの女のことですね」
ゴドー「うるさい!… ロボットの知ったことじやない!… 一人にしておいてくれ、オルガ」
オルガ「…」

32. キッチン・暗い

 オルガが流し台の前にじっと立っている。
 逆光の中で異様に目が光りはじめ、赤、黄、青と目まぐるしく変化し、チカチカとまたたく。髮の毛が逆立ち放電をはじめ、体中に電光がはしる。
 体が小きざみにふるえ、火花が飛び散り全身が白熱してくる。
 オルガの手の中で、あっというまに握り漬されるグラス。手を流しの中ヘつくと、激しくショートし、水がはね、水蒸気がもうもうとあがる。
 じっと耐えているオルガ、しだいに放電がおさまり、はねた水が水玉になって体につき、顔から目にかかって、したたり落ち、涙のように見える。

33. 元老院・クラブハウス庭園

 噴水の前で語らうゴドーとレナ。二人より添い、キスをする。
 植え込みの樹の陰から 抱き合う二人をじっと見守るオルガ。
 ながいながい口づけをするゴドーとレナ。
 二人の姿に、がっくりとうなだれるオルガ。
 そのオルガのお尻をほうきで払うピンチョ。
 ピンチョ、オルガの脚をこぶしでちょっと叩いてみる。
 SE、コツコツ。
ピンチョ「ヘッ、なんだロボットか」
 振り向いて、抱き合っている二人を見るピンチョ。
ピンチョ「ね、あの二人を見なよ」
 ゴドーとレナ、濃厚なキス。
ピンチョ「キスだなんて! まったく地球人愛情表現不衛生だ。オレたちの星じゃ、相手を清潔にしてやることが、最大の愛の表現さ。(と、ほうきをとり出して) これが尊敬をこめた愛、(別のほうきをとり出して) これが友だちヘの愛、(さらに別の、美しいぼうきをとり出す) そして、これが恋のしるし。…なあ、あの二人、愛し合ってるんだろ」
オルガ「…」
ピンチョ「地球人のことばで"合いのカップル"っていうんだろ?」
 オルガの肩にとびのるピンチョ。
ピンチョ「どうしたの?! アンタさみしそうだね (タルからブラシを出して、髮をすいてやりながら) 元気だせよ。力になってあげるよ」
 と、急にトランクになってしまうオルガ。
ピンチョ、オルガのトランクをそうじしなガら。
ピンチョ「アンタ、いがいと人見知りするんだね」

 肩を寄せ合って語り合うゴドーとレナ。
レナ「…ロックと結婚したくないわ、おそろしいのあの方… わたくしに結婚を申し込んだのも… わたくしの父の身内になるためなの。あの方、元老院の総理の座を狙っているのよ」
レナ「何度もいったの、でもね、父はあの人に惚れこんじゃってて… それとね、いまは結婚って、本人の気持より、優生学的な相性ってのが先なの、優秀な子孫を生むために」
ゴドー「そんなバカな! 愛してもいない男と結婚しなきゃならないなんて! オレはそんな身分は大きらいだ。元老院てのはそんなしきたりなのかい」
レナ「…お願いゴドー、わたくしを連れて逃げて!」
ゴドー「オレには任務がある… キミとはもう… (ヘリの音が聞こえ、サッとサーチライトの光ガ照射される) しまった!」
 サーチライトの強い光の中に浮かび上ガる二人の姿。
ゴドー「パトロールだ」
レナ「わたくしたちが一緒にいるのを見られたわ」
ゴドー「逃げるんだ」
 サーチライトの光の輪から脱出する二人。
 ゴドー、トランクになったオルガを拾い、逃げ出す。
 あとを追って逃げ出すピンチョ。
ゴドー「オレの車ヘっ」

 突っ走る車。
 車の中には、ゴドー、レナ、そしてピンチョ。上空をパトロールヘリが追ってくる。
へリのスピーカー「その事、停止しなさい」
 ハイウエーを凄まじいスピードで逃げる車。
ピンチョ「まったく、地球人おかしい。愛しあってる二人、なぜ追いたてるんだ」
ヘリのスピーカー「その車、停止せよ」
レナ「とても逃げ切れないわ」
ゴドー「捕まってたまるか」
 海岸の通りに出た車。
ゴドー「レナ、バンドをしめろ」
レナ「いいわ」
ゴドー「いくぞ」
 道路をとび出した車。崖を走りおりて浜に出る。なぎさを猛スピードで走る車。
 パッと前方から強烈なライト。
 前に止まっている車が二台。
 ゴドーの車、あわててUターンする。二台の車、追跡を開始。
ゴドー「いくぞ」
 ゴドーの車、いきなり渚に突っ込み、そのまま水の中ヘ。
 暗い水中を行く車。上空にパトロールヘリ二機が飛来し、サーチライトで海面を照射する。
 サーチライト、海中を行く車の影を捕捉。
 パトロールベリ二機から同時にミサイルを発射。
 ミサイル、かなり前方の海水に没し、いっときあって、爆発。その衝撃でものすごい高波が発生。その高波に巻きこまれ、もみくちゃにされるゴドーの車。汲もろとも磯に押し戻され、叩きつけられる。波がひくと岩の間にゴドーの車、ひっくり返っている。
 ごそごそとゴドーが這い出し、気を失っているレナを引きずり出す。
 へリが着陸する。別のへリが照射するライトの光の中に一人の人物が浮かびでる。
 ロックである。
 ゴドーとレナにもライトがあたる。
ロック「レナ、とんでもないことをしてくれたな… (アゴをしゃくって、警備兵に) 連れ行け」
 ゴドーとレナに近づく警備兵。
ゴドー「レナは渡さない」
 かまわずゴドーとレナを引き離そうとする警備兵。
 こぶしをふるって暴れはじめるゴドー、警備兵の鉄拳をみぞおちに受けて、くずおれる。
ロック「おろかなことを… おまえに、その資格はない。レナ! こっちヘきなさい! あなたも共犯ですぞ」
 レナ、警備兵にひきたてられて行く。
 レナ、悲し気にふりかえってゴドーを見るが、そのまま押されてひきたてられて行く。
 警備兵にとり押さえられながら、悲痛な声で叫ぶゴドー。
ゴドー「レナーっ」

34. 科学センター・ロックの部屋

 ロックの前に膝を落としてうなだれているゴドー。しかし、みじめな感じではない。
ロック「バ力なヤツだ! こともあろうに、スーパーエリートと関係を持とうなどと… 身のほどを知らなさすぎる。おまえは宇宙パイロットとしての資格は無論のこと、市民としての権利も剥奪され、囚人としてアイスランドの労働キャンプに送られることになった。これは法務委員会の決定だ。
 わたしはおまえを兄弟だと思えばこそ、目をかけていたんだが、すべて無駄だったな。身から出たサビだ。(脇に立っている警備ロボットに向かって) そいつの育児ロボットはどうした」
ロボット「まだ見つかりません」
ロック「見つけしだい解体しろ」
 ロボットの了解のしるしで、目が緑色に光る。

35. 海岸・朝

 波が朝陽をあびてキラキラと光っている。
 岩の上に叩きつけられ、ひっくり返っているゴドーの車。
 車の下から、ごそごそと這い出してくるピンチョ。
 オルガのトランクを引きずってよたよたと海岸ベリの丘の上を行くピンチョ。
 石ころにひっかかるトランク。ムリヤリ引っぱった拍子にひっくり返るピンチョ。トランクからコントロールバーがとび出してくる。
 ピンチョ、ほうきを取り出して、サッサとはく。と、スイッチが入って、オルガ、ピンと立ち、ピンチョに倒れかかって来る。
 オルガの下敷きになったピンチョが、あわててコントロールバーをいじくりまわすと、オルガ、ピンチョの上で、ジェット機や車に変身する。いろいろに押し潰されるピンチョ。
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