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シナリオ 4 63 スペース・ジャーク機内・サロン サロンの片隅、ほの暗いあたりにぼうっと鳥の姿が浮かびでる。 ゴドーはオルガの手をとり、自分のほおにあてる。 ゴドー「オルガ…」 と、ゴドーに呼びかける声。 火の鳥(Off)「あなたには、とても勝てません…」 オルガの手をほおにあてて、ほおずりをしていたゴドー、ハッと顔をあげて。 ゴドー「だれだ?」 あたりを見まわすゴドー。 と、ぼんゃりとした光に包まれて、火の鳥がうす暗いサロンの片隅に立っている。 火の鳥(Off)「あなたの心には、わたしのどんな力より強い武器があって、守られています。私が欲しくて長い間、捜していたものです。私の負けです。あなたのどんなのぞみも、ききましょう。そのかわり…」 空耳かと、あたりを身まわすゴドー。 火の鳥「わたしにあなたのその持っているものを… ほんのちょっぴりわけてくださいませんか…」 立ち上がるゴドー、火の鳥を見て。 ゴドー「オレに話しかけたのは、おまえか? しゃベれるのか、人間の言葉を!」 火の鳥「しゃベってはいません。あなたの心に話かけているのです」 しおらしく、女性っぽいはじらいを見せ、首を色っぽくくねらせる火の鳥。 ゴドー「オレの心に?」 火の鳥「そうです」 ゴドー「…どうした、オレをおそれているみたいだ…」 火の鳥「ええ、おそれています。それより、あなたが羨ましいのです。この世に本当の武器を待った勇者は、そんなに多くはいません。あなたは…その一人です」 ゴドー「オレは、そんな武器なんか、なんにも持ってやしない…」 肩をすくめるゴドー。 火の鳥「いいえ、あなたの武器は、どんな暴力より、破壊力より強いのです… それはひとつの星の運命を変えるほどの力がありますのよ…」 ゴドー「オレにはわからない。だが… 今はもう… おまえのことなんか、興味も未練もないんだ。オレは… この女を生き返らせなければならないんだ。このオレ自身の手で! (しゃがみこんで、オルガに手をかける) そうしなければ、オレは生きていく意味がないんだ」 そんなゴドーを、キラキラと輝く目で見守る火の鳥。 ゴドー、ふたたびオルガの修理にとりかかる。 ゴドー「だめだ… とても… 直せない。何日かかったって生き返らない (ぐっと体を起こし、火の鳥のほうに向きなおって) オルガは、おまえが殺したんだ! オルガを生き返らしてみろ。そしたら、オレの生命だろうが、武器だろうがくれてやる!」 火の鳥「わたしには修理はできません。でも仮の命をふきこむことはできます」 ゴドー「なんだって? 命をふきこむ? ピノキオじゃあるまいし…」 火の鳥「やれば、わたしの欲しいものをくださるわね?」 ゴドー「やるとも、とれるならなんでも持っていけ!」 と、突然、火の鳥、光を発して真っ白になる。あまりのまぶしさに思わず手で顔を覆うゴドー。火の鳥、細かい光の粒になり、崩れるようにオルガの焼け焦げた体にすいこまれてゆく。 黒焦げのオルガが光に包まれ、みるみる元の姿になる。 ゴドーが目を開け、茫然としてオルガを見つめる。 ゴドー「オルガ…」 喜びにあふれるゴドー。 ゆっくりと身を起こすオルガ。すっかり元の姿になり、いやそれにもまして美しくなっているようだ。 ゴドー「オルガーっ (思わずオルガを抱きしめるゴドー)…なおってよかった (ゴドー、オルガの髮を手でさすり) オルガ、オレはキミなしでは、いられない… オレは気がつかなかった… ずっと昔、キミに育てられた時から、キミが好きだったんだ! それに気がつかずに今まで、ほかの女や、つまらぬことに道草食って… オレはバカだった」 オルガ「わたし、ロボットですね。あなたは人間で、ご主人です…」 ゴドー「ロボットも人間もあるもんか! 愛してる。世界中より、全宇宙より、もっと強い力で… きみを… 愛してる! それだけでたくさんだ!」 オルガ「わたしの欲しかったもの…」 一瞬、オルガの顔、火の鳥の顔とダブル。 抱き合ったまま立ちつくす二人。 64. 宇宙空間に漂うスペース・シャーク 無限の宇宙に向けて遠ざかるサルタのライフカプセル。 見送るゴドーの目にいっぱいの涙。 65. 火の鳥の星ヘ (死の星から緑星ヘ) スペース・シャークがゆっくりと漂っている。 ゴドー(Off)「まるで時間が止まったみたいだ… なんだか死の匂いがする」 とある太陽のまわりをめぐる惑星。 火の鳥(Off)「ゴドー… よく見て…」 ゴドー「火の鳥! おまえはまだいたのか」 惑星に寄ってゆく。惑星の表面はいちめんにひび割れている。 火の鳥「この星は死にかけています… (地表がどんどん通過していく、荒涼としたクレバスがつづく)。この星はつい最近まで、人間や生きものが住んでいました。でも間違った文明をつくってしまいました…」 地表に太陽の光をあびて影を落としている廃城の群。 ゴドー「あれは… 町のあとじゃないか」 火の鳥「そうよ、このあいだまで栄えていたのです。でもこの星の人間は愚でした。自分の住んでいる星を戦争で滅ぼしてしまって…」 地表。町の廃墟。正面に輪をもった太陽。 移動をつづける町の廃墟にダブッて、星の都市の最後のありさま。のたうちまわる宇宙人たち、ビルがとけて曲がってゆく。 ダブリが消えると、荒れはてた荒野が見える。 ゴドー「だれもとめようとしなかったのか…」 火の鳥「みんなよくわかっていたのです。でも突っ走ってしまったのです」 ゴドー「あれはなんだ?」 死にかけた星にモヤのようなものがしみ出し、それがひとかたまりになって、星から抜け出しかけている。 火の鳥「いま、食後の生命が星から抜け出そうとしています」 モヤのかたまりが、ゆらめきながら惑星から触れてゆく。 ゴドー「命だって… 星は生きものなのかい?」 火の鳥「星はみんな生きていますわ。ゴドー、あなたの住んでいる星だって…」 ゴドー「地球が生きものだなんて… そんな!」 火の鳥「ゴドー、あなたの体に住んでいる徽菌は、あなたが生きものだってことは考えたこともないでしょう? 地球はもちろんあなたが考えているような生きものではないかもしれないけど、それでもちゃんと生きているのですよ」 黴菌がうごめいている。ぐっと引くと人間の体内にいる。その人間がどんどん小さくなり、地球の上にいることがわかる。 ゴドー「信じられない」 地球が小さくなり、中央に消え、美しい孤空に色とりどりのコスモゾーンがとび交う。 火の鳥「ごらんなさい。この宇宙には生命が溢れています。あれが小さな生命にもなり、大きな星の生命にもなるのです。もとはみんなおんなじものです」 ゴドー「そんな…」 ゴドーの顔、七色に彩られ、刻々変わってゆく、ラストでゴドーの顔に星がちりばめられ、広がって星空になる。 ワルツの曲にのって、星空を美しい五線と光の音符が走っていく。曲線の上を走り、先端まできて、花火のように火の粉を撒き散らす。いくつかの星が乱舞する。二つの星がうずをまいて、中央でぶつかり火の粉になって散る。 サイケデリックなトンネルが、ワルツのリズムでT・Uしていく。 トンネルがちぢんで、火の鳥の尾羽根になり、ワルツにのって揺れながら軽快に飛んでゆく。と、光となって画面いっぱいになる。 宇宙空間に浮かぶ、緑色の輪を持った美しい緑色の星。 火の鳥「この星はわたしが復活させたのですよ」 ゴドー「復活? どうやって?」 緑色の星の風景。 美しいアルプスを思わせる、目のさめるような緑の世界。 火の鳥「ある小さな生きものの命を身代わりにして、この星に与えたんです。それで蘇ったんです」 緑色の蝶のような生きものが飛んでいる。地上は緑に包まれた平原。かつての地球の沃野のようである。おかしな小生物が跳ねまわっている。 ゴドー「そんなことが、できるかい?」 火の鳥「ええ、わたしなら… でも、それはその生きものが、そうなることをのぞんだからです」 四本足の生物が、歩いていて、ゾウのように鼻をのばして、何かをつかみ、巻きこんでひっこむ。 ゴドー「…ここは大昔の地球みたいだ…」 背の高い生物は、一本ずつ四つに分かれていってしまう。その前をクリーナーのようなものが地面をなめながら横切る。 美しい花園が見える。 ゴドー「すてきだ! なんてきれいなんだろう!」 火の鳥「ゴドー、あなたにこの星を差し上げます」 花園の中からピンチョ、クラックが顔を出す。 ゴドー「ピンチョ! やあ! クラックも!」 プークスも顔を出す。 ゴドー「プークスも」 花からとび出してくる三人。 ゴドー「いったいどういうことなんだ」 クラック「オレたちゃ、火の鳥にここヘ連れてこられたのさ」 ゴドー「死んだんじゃなかったのかい…」 クラック「このとおりピンピンしてらあ」 プークス「××××」 ピンチョ「こんな住みいい星はないよ、ゴドー」 クラック「そう、三食付き、土地代はタダ、風光明美、冷暖房不要ときやがった」 ピンチョ「ゴドー、ここでオルガとしあわせに暮らしたらいいよ」 ゴドー、オルガのほうを振り向いて。 ゴドー「オルガ、キミはどうだ」 オルガ「ゴドーさえよければ」 と、恥ずかしそうなオルガ。 ゴドー「よーし、キミたちのいうとおりだ。ここに船のイカリをおろそう!」 しきりにうなずくクラック。 ゴドー「クラック、道具出してくれ、みんなで船の修理をはじめるんだ」 クラック「じよ、じようだんじゃねーや!」 破損したスペース・シャーク。みんなで修理にがかる。 先をもぎ取られた背ビレの上に腰かけて、ハンマーで叩いているクラック。 クラック「畜生、なんのためにオレは無給で奉仕しなきゃならねえんだ」 仕事をやめて笛を取り出し、吹くクラック。 チャルメラの音がする。 クラック、憤然として笛を投げ捨てる。 作業場の近く。ゴドーがキャベツのような野菜を手にして、ぽけーっと立っている。 修理材をかついで通りかかるオルガ。 オルガ「ゴドー、何を考えているの」 ゴドー「いや… ちよっと」 野菜をなでるゴドー。 ゴドー「この野菜を… 地球に植えたら育つかと思ってさ…」 ゴドーの背後に立ったオルガの顔、一瞬、火の鳥に変わる。 オルガ (実は火の鳥)「やめて! 地球のことなんか思い出さないで、あんな死にかけた星のことなんか…」 ゴドーが振り向く、火の鳥、オルガに変わる。 夜。 暗い寝床に二人寄り添って寝ている。フト目をさましたゴドー。手をのばして明かり草の茎に触れる。と、ライトがつく。 ムックリ起き上がるゴドー。つづいてオルガも。 ゴドー「オルガ、ぼくは地球へ帰る」 オルガ「ええっ!」 ゴドー「この星の野菜や果物を、持って帰って植えるんだ。そしたらきっと豊かになる」 オルガ「ゴドー、そんなことをしても、地球は救えないわ。オルガとこの星で楽しく暮らしましょ。ここは平和で、幸福で、永遠の地所よ」 ゴドー「いや、オルガ… ぼくは、地球へ戻りたいんだ」 オルガ「なぜ? どうしてそんなに、地球が恋しいの? ゴドー、地球へ戻ったって、あなたは、しあわせにはなれないわ!」 ゴドー「地球はぼくの生まれた星だ! どんなに住みにくくても、荒れ果てても、あれはぼくのふるさとなんだ!」 オルガ(実は火の鳥)「ゴドー、わたしよりあの星が好き? わたしを愛してないの?」 オルガ、火の鳥とダブル。 オルガを抱きしめるゴドー。 ゴドー「きみは好きだ。でも、地球をいま救わないと、人間は… 生きものは、死んでしまう… ね。わかってくれよ!」 オルガ、目をつむり、ゆっくりあける。 オルガ「…わかったわ… でかけましょう…」 66. 労働キャンプ・所長室 とてつもない大声で怒鳴るロック。 ロックとレナ、その前に立っているブラック・ジャックとブーン。 ロック「なんたるいい草だ! このプロジェクトは、元老院の至上命令なんだ。それを中止しろなんて、だれに向かってそんな口をきくんだ。開発はとことん続けろ! わたしが陣頭指揮をとる」 ブラック・ジャック「そいつは、おまえさんの自由ですがね」 ブラック・ジャック、テレビのスイッチを入れる。キャンプの惨状がうつし出される。 ブラック・ジャック「この地上を見なさい。道路は寸断され、設備はなおすそばから、ぶっ壊され、これじゃ、サイの河原だ。例え世界中の金をぶちこんだって、到底成功しっこありゃしねえよ。それどころか、危険信号なんだ。今日、明日あたり、とんでもねえアクシデントが起こるかも、しれませんぜ。作業員もうすうす感じかけてる」 ロック「さわぐ作業員を鎮圧することが、おまえの任務じゃないか!」 ブラック・ジャック「わたしァ、真実をいってるんです。人間の力では、どうにもならねえ限界があるんだ。地球を救うんなら、もっとほかにやらなきゃならんことが、あると思いますがね」 キャンプの情景。深いひび割れの底。うす赤く光る溶岩。 67. キャンプ・貴賓室 浴びおえて、タオルを巻いて室内ヘ。 レナ「あなた、あのブラック・ジャックという所長、やめさせたほうがいいわ。陰険ですもの」 ロック「おまえの浮気の相手だった、ゴドーをとり逃がしたからか?」 レナ、ドレッサーの前に腰かけながら。 レナ「やめて!もう」 髮をすきはじめるレナ。 レナ「あんな男、忘れてしまったわ。たかが宇宙パイロットじゃない。それより、このキャンプに、あなたの反対分子が多いことが気がかりなの」 ロック、ワイングラスを両手に持ち、一方をレナに手渡しながら。 ロック「みんな、あとでほえづらかかせてやるさ (グラスを合わせて) わたしのプロジェクトに乾杯」 レナ「そして、未来の元老院議長閣下に」 ワインを飲み乾すレナ。激しい暴動が起こる。 レナ、グラスを落とす。激しい震動つづく。 ロックもグラスをとり落とす。割れるグラス。 レナ「キャッ」 インターフォンに駆け寄ったロック、ボタンを何度も押す。 ロック「本部が通じない。いったい何をしでかしたんだ」 キャンプ全体に震動がつづいている。 68. キャンプ・監視塔 監視塔の上からこのありさまを、見おろしているブーン。 ロックが駆け込んでくる。 ロック「どうしたんだ (下を見て) これは! …何が起きたんだ」 ブーン「パニックであります。みんな浮き足立っております」 ロック「すッ、すぐ鎮圧しろ」 ブーン「しかし、所長は勝手に逃げさせておけといわれました」 ロック「やつは、反逆者だ。わたしの命令をきけ、片っぱしから射殺しろ」 ブーン「しかし… しかし、子どももいます」 逃げる群衆の中に転ぶ子どもの姿。 ロック「それがどうしたっ、十人や二十人の子どもなど、かまわん。早く撃たんかっ、ブーン! 命令だっ! (と、ロック、監視塔の窓から空を見る) なんだ、あれは」 はるかかなたに、スペース・シャークの機影。 ロック「あれは… スペース・シャーク…」 ぐんぐん降下してくるスペース・シャーク。 前方の広場に着陸する。 機内から出て来る二人の人影。 ロック「見ろ… ゴドーのヤツだ…」 地上に降り立つゴドーとオルガ。 ロック「ゴドーッ」 マイクに向かって怒鳴るロック。 ロック「聞こえるか、わたしはロックだ。よくもおめおめと戻って来られたな。サルタ博士はどうした」 ゴドー「博士は死んだ」 ロック「火の鳥はどうした、見つけたのか」 ゴドー「ああ、出合ったとも」 ロック「じゃあ、運んで来たんだな」 ゴドー「いいや… 捕えなかった…」 ロック「とり逃がしたというのか? 逃がしておいて、手ぶらで帰って来たのか、嘘をつけっ。おまえの顔にかいてあるぞ、鳥を手に入れたんだな。どこにある、その船の中か」 ゴドー「ちがう、火の鳥は持ってこない。そんなもの必要ないんだ」 ロック「でたらめいうな! (傍のブーンに) ブーン、ゴドーを逮捕しろ、オレが船の中をじきじきに調ベる」 ブーン「はっ」 警備ロボットたちが、歩調を揃えて前進し、四方からゴドーとオルガをとりかこみ、手にした銃をつきつける。 監視塔から外に姿をあらわすロック。 警備ロボットに捕えられているゴドーの前まで来て、チラとにらみ、スペース・シャークのほうヘ。 ロック、スペース・シャークの搬入口から中をうかがう。 中に山積みになっている、野菜や果物。搬入口から機内ヘ駆け込むロック、肩で息をしながら、あたりを見まわす。どこもかしこもぎっしりと野菜や果物でいっぱいになっている。別の船倉を見る。野菜の山。ロッカーを開けると中からキャベツのようなものが、いくつも転がり出る。一束の菜っ葉をつかみあげるロック。 ロック「なんだ」 戸棚のフタをあけるとキュウリのようなものが、ぎっしりと詰まっていて、中の一本が転がり出る。 ロック「これはっ!」 床に落ちたキュウリを靴で踏み漬すロック。 必死になって機内を走りまわるロック。どこもかしこも、野菜、果物、穀物、植物の種でいっぱいになっている。 棚の上から、センイ状のものがガラスの容器に入ったものが、バラバラと落ちる。 棚に片ひじをつき、ハアハア息をついて、メガネをずり上げているロック。 ロック「こんなバカな」 スペース・シャークから出たロック、ゴドーのところヘ走り寄って、一発平手打ちを食わせる。かえす手でもう一発。胸ぐらをつかんで引き寄せ。 ロック「火の鳥を… どうした! どこヘやった! いえ!」 ゴドー「野菜と種とがあったろう?」 ロック「たのむ、教えてくれ。火の鳥を渡してくれたら、どんなのぞみもかなえてやる。兄弟じゃないか」 ゴドー「何度もいわせるな、火の鳥はないんだ」 ロック「…うそだ! なぜ、あんなくだらん物ばかり持って帰って来た」 ゴドー「今の地球には、あれのほうが必要なんだ。このキャンプの全員、いや世界中の人間が、あれを使ってもう一度、地球を蘇らせる」 ロック、ゴドーの胸ぐらから手を放し、よろよろと二、三歩さがり。 ロック「そんな計画をだれが許した?!」 ゴドー「ロック、あんたもオレたちといっしょに始めよう」 ゴドー「元老院の連中にも話してくれ」 ロック、思わずゴドーに平手打ちを食わせようとする。と、オルガがつつと手をのばして、ロックの腕をつかむ。 ロック「はなせ、ロボットめ」 にぎりしめた手をふるわせたロックが、ゆっくりあとずさりしてゆく。 ロック「よ、よし… 船内のものは元老院で没収する! きさまは… とびきり痛い目にあわせてやるぞ… どうあっても、火の鳥のかくし場所を吐かせてやるぞ」 ゴドー「みんな聞いてくれ。あの船の中の資源はみんなの財産だぞ (いっせいにゴドーを見る人々) 元老院に一人占めされるなーっ、船をまもれーっ」 ロック「そいつを黙らせろっ」 69. キャンプ一帯 警報のサイレンが鳴りわたる。 震動、激しくなって、地表に地割れが走り、あちこちで建物や、建設用機材がゆれ動き、崖崩れが起きている。 作業員が大声で叫ぶ。 作業員A「パイプが危ないーっ」 激しい震動で、パイプが破れ蒸気が噴き出してくる。 岩の割れ目を伝って溶岩が噴出してくる。 あちこちで爆発が起こり、高台で稼動していた工事用の巨大なブルが落下してくる。 パニックに陥って逃げまどう作業員たち。逃げる群衆にもみくちやにされるロック、逃げる人々の流れに逆らって宿舎に向かう。 やっとのことで宿舎にたどりつくロック。 すさまじい勢いで溶岩が噴出し、谷間を流れ下って、建物やパイプを次々と飲み込んでゆく。 パイプに引火し、そのままタンクに火が入って爆発。 連鎖反応を起こして爆発してゆくタンク群。 宿舎に駆け込むロック。室内にはレナが恐怖におののきながら、長椅子に身を伏せている。 ロック、レナの手をとって外ヘ連れ出す。 とたんに、近くのタンクが爆発して、破片がとんでくる。 廃墟と化したキャンプを、コントロールセンターめざして走るゴドーとオルガ。 倒れかかった建物の間を、くぐり抜けて、ようやくコントロールセンターに着く二人。 コントロールルームの巨大なコンピュータの前に、ただ一人座っているブラック・ジャック。 ゆっくりふり返って二人を見るブラック・ジャック。 ブラック・ジャック「帰って来たかい坊や」 ゴドー「どうなったんだ。キャンプはもうダメなのか」 ブラック・ジャック「キャンプどころじゃねえ、世界中あっちこっちでおっぱじまったぜ」 たくさんのモニターテレビのスクリーンにキャンプや、各地の惨状がうつっている。 ブラック・ジャック「地殻変動が連鎖反応を起こしたんだ。アジアで二か所、アフリカで二か所、南米で三か所、噴火と地震が起きている」 ゴドー「そんなに… もうとめられないのかい?」 ブラック・ジャック「まあ、手遅れだね。こんなことは予告されてたんだ。バカな科学者どもさ」 パイプを伝って逃げようとする群衆。谷間からすさまじい勢いでマグマが噴き出し、人間もろともふきとばす。 駐車してあるロックの車に殺到している群衆。だれかがスイッチを入れて、ぐぐーっと動く。さらに多くの群衆がとりつく。 ロックとレナがやってくる。 ロック「その車にさわるなーっ」 スタートする車。たくさんの人を乗せ、バラバラとふり落としながらスピードをあげる。 と、バランスを崩し、ぐーっと右に切れてそのまま突っ走り、タンクに激突、大爆発を起こす。 ひきつづき、あちこちで爆発が起こる。 茫然として立っているロック。レナ、ロックの肩に顔を埋めてすがりついている。 レナ「だから、こんなことになると思ったのよ。あなたが無理を通すから…」 ロック「うるさい」 70. コントロールセンター コンピュータの前のブラック・ジャックとゴドー、そしてオルガ。 ゴドー「所長、格納庫にロケットは何台ある?」 ブラック・ジャック「十台はある」 ゴドー「それにキャンプの人々を乗せて、脱出させてくれ、格納庫の扉を開けて中ヘ入れてやってくれ!」 ブラック・ジャック、しばらく考え、ゴドーを見てニヤリとする。 ブラック・ジャック「よかろう」 と、その瞬間、オルガがゴドーを抱えてジャンプする。間一髮、大きな建材が落ちて来て、コンピュータにぶつかる。 危うく避けたゴドーとオルガの上にばらばらと小石が降りかかる。 コンピュータ、激しくスパークする。 ゴドー「所長ーっ」 砂ぼこりの中にブラック・ジャックの姿。 ブラック・ジャック「ご覧のとおりだ。もう格納庫を開けることはできなくなった。制御装置が死んでしまったからな」 また、何か落ちて来そうな気配。 ゴドー「ここは危ない! とにかく外ヘ出よう!」 ブラック・ジャック「さっさと行け。かりにもオレは所長だ。ここは離れるわけにゃいかん。いわばここの船長だ。無事を祈るぜ」 ブラック・ジャック、さっと手を出してゴドーの手を握る。みつめあったまま無音の二人。 コントロールルームを出るゴドーとオルガ。 コントロールセンターの建物を出て走る二人の後で、激しい震動の中で爆発を起こす。 ゴドーとオルガの行手に地すベリの断層がおき、転げ落ちそうになる。オルガが、さっと手をのばして身を支え、ゴドーは辛うじて、オルガにしがみつく。オルガの体をよじ登るコドー。断層が広がり、オルガの足がはずれて、ずり落ちそうになる二人。割れ目の底から、震動とともに、赤熱したマグマが噴き上がってくる。 必死によじ登るゴドー、オルガ。登り切って逃げ出した瞬間、背後にどっと噴き出るマグマ。 スペース・シャークのところまで戻って来たゴドーとオルガ。見ると取り入れ口に人が立っている。 ゴドー「…レナ!」 レナがいる。その脇にはロック。 ゴドー「レナ… どうして、ここに…」 レナ「ゴドー… おねがい… わたしたちを助けて!」 ゴドー、レナとロックを見くらベて。 ゴドー「そうか… レナ、きみはもうロックの奥さんだったな」 ロック、スペース・シャークを指さして。 ロック「おまえに操縦してもらう。こいつは、おまえの命令しかきかないロケットだ。どうしてもおまえが必要なんだ」 ゴドー「なんだって…」 ロック「このロケットは、われわれが使う。さあ来れっ! 出発させろっ」 ゴドー「ことわる!」 ロック「おまえも助かりたいだろう。今逃げないと手遅れだぞ!」 ゴドー「ほかのみんなも来せるんだ」 ロック「そんな… ひまはない」 レナ「ゴドー、おねがい。あなたとは友だちだったじゃない。あたしのためにロックのいうとおりにして」 と、いいながら手をのばして、ゴドーのホルスターからガンを抜きとり、ロックに投げる。ロック、受けとって、かまえる。 ロック「さあ、ゴドー」 あわれむようにレナを見るゴドー。 ゴドー「レナ… こんなにまで… きみは…」 ロック「よーし、さっさと乗れ、そのロボットは来るな。おまえだけだ」 レナ、さっさとスペース・シャークのほうヘゆく。スペース・シャークの搬入口に立って。 レナ「あなた、早くいらっしゃい」 震動がはじまる。 レナ「キャッ」 ロックの足もとの地面が割れ、スペース・シャーク、バランスを崩し、機首を上げる。 レナ、入口の中に転げこむ。 クレバスからマグマが噴き出し、スペース・シャーク、いよいよ傾く。激しい震動がつづく。 ロックが手をさしのベて。 ロック「レナーっ! …早くとびおりろーっ」 傾いてせり上がってくる搬入口の床。必死でそのヘりにつかまっているレナ。 レナ「た… 助…け…て」 ついに力つきて、転げ落ちてしまう。 レナ「キャーッ!」 割れ目にはさまれたスペース・ジャーク、メリメリと押し潰され、ヘし折られてゆく。 あたりで、さかんにマグマが噴出しはじめる。 ロックの目前に噴出するマグマ。のけぞって倒れるロック。顔を熱であぶられ、両手で覆って倒れているロック、地面にできたひび割れにのみこまれようとしている。 さっとゴドーが手をのばして、ロックの手をつかむ。大きく広がった割れ目に、辛うじてゴドーに片手でつり下げられているロック。 震動つづく。 ロック、目がつぶれ、血だらけの顔で見上げる。ゴドー、ロックのもう一方の手をつかみ、両手で支える。ゴドーの背後からオルガが抱きかかえ、ジェット機に変身して飛び上がる。 ロックを両手でつり下げたゴドーを抱えて飛ぶオルガ。スペース・シャークは、マグマの噴出がつづく中で、しだいにクレバスにのみこまれてゆく。 ゴドーにつり下げられて飛んでゆくロックの足下はるか、岩場が崩れ、建物の倒壊が激しい。 飛びつづけるオルガ。 あちこちで爆発がつづき、ついには巨大なキャンプ地の山の一角がずり落ちる。 マグマを噴き上げる火山の上空を飛んでゆくオルガ。 赤熱のマグマが谷にあふれている。 山が裂け、マグマがうねって赤く流れている。そこにそって、オルガ、はるかかなたヘ飛んでゆく。 71. 海岸の廃屋 荒れ果てた廃屋の中、粗末なベッドに寝かされているロック。 ベッドの傍に、ロックを見守るゴドーとオルガが腰をおろしている。 ロック「ゴドー… そ、外の様子はどうだ?」 ゴドー「暗いよ、とても暗い」 ロック「(つぶやく) わたしは… 科学センターに… 帰るぞ」 ゴドー「科学センターは… もうないよ。ロック… 何もかも潰れてしまったんだ」 ロック「… (間) … わたしは、間違ってなかった。あれはほんのミスだったんだ。わたしは、もう一度やりなおす。最高の技術で、きっと地球を復活させてやる… わたしの頭脳なら… 絶対に… 成功させる自信がある! な、ゴドー、おまえも、そう思うだろう?」 ゴドー「ああ…」 ロック「…ゴドー… どこにいるんだ。声が聞こえないぞ。…ゴドー… わたしを一人にしないでくれ… (顔を振り向けて) 何かが来た。わたしを連れて行く気だ。助けてくれ…」 ゴドー、そっとロックの頬に手をあててやる。ロック、かすかにほほ笑む。 ロック「なんだ… そこに… いたのか… (間) にいさん…」 コトリと首を落として息絶えるロック。 海鳴りが聞こえる。 真っ暗な海上はるかに、津波が襲ってくる。 オルガ、椅子から立って。 オルガ「ゴドー、ここは危ないわ。行きましょう」 廃屋からゴドーを抱えて飛び上がり、去るオルガ。 しだいに津波が近づき、高まって、どっと押しよせ、廃屋をひとのみにしてしまう。 72. 南海の小島・夜 うち寄せる高波。岸近くでくだけ、夜の浜辺に、波がしらが青白く光っている。 渚に足を波に洗われながら、立ちつくすゴドー。 ゴドー「地球の最後のあがきか… 硫化物が海を毒の水に変え… 大気には硫化ガスが充ちあふれる。イオ… そうだ、木星の衛星、イオがそれだ。地球はイオみたいに、硫化物のガスでおおわれてしまうんだ。いやだーっ、地球を返せ、世界をもとに戻してくれーっ」 手を顔にあてて、鳴咽するゴドー。 オルガ「あなたは生き残るわ。ゴドー」 ゴドーの背後にオルガが立っている。オルガの体、かすかに光を発している。 オルガ「火の鳥の血を飲めば、あなたは不老不死になれるわ」 ゴドー「…オルガ… 何をいうんだ」 オルガ「あなたが願いさえすれば、火の鳥はすぐあらわれて、あなたに血をあげるわ。そうすると、世界は滅んでも、あなたは無限なのよ」 ゴドー「オレは、滅んでしまった地球に生き残っても、しようがない…」 オルガ「いいえ、地球はまたいつか復活するわ。何億年もかかるかしらないけど、きっと生きものも、生まれてくるわ。新しい人類もきっとまた誕生するでしょう。あなたはそれまで待つの。そして、見守るのよ」 空には黒雲が渦巻さ、稲妻が走り、世界の終わりを思わせる恐ろしい様相を呈している。 ゴドー、ちょっと身をひいて、けげんそうに。 ゴドー「おまえは… オルガじゃないのか… おまえはいったい、だれなんだ?!」 オルガ「わたしはオルガよ。でも、あなたになんでも差し上げられるオルガ。どうぞ、おっしゃい。死なない体になりたいって…」 ゴドー「だれかが、おまえの体にのりうつっているんだな。それは… 火の鳥かい? そうなんだろう?」 オルガ「…」 ゴドー「ならいおう! オレの望みはただひとつ、たった今、世界中の人間を、生きものを救いたいだけだ! 地球を元どおりにしたいだけだ!」 たじろぐオルガ。一歩さがる。 ゴドー「オレは、今の地球が好きだ。この大好きな地球を失いたくない! 地球を、生きものを、人間を、救いたい! かわりに… オレが死んでもいい…」 オルガ、ショックを受け、パッと光を発し二、三歩退く。ゆっくり顔をあげ、手でかすかに打ち消すオルガ。 オルガ「そんなことは望まないで… そのねがいがかなったら… あなたは… 地球のかわりに死ぬのよ!」 ゴドー「悔いはしない。オレには、その望みしかないんだ。オルガ… 火の鳥に伝えられるなら、伝えてくれ」 オルガ「やめて… もう一度考えて」 ゴドー「オレの命と、地球の復活とを、ひきかえに… ねがいをかなえてくれ!」 オルガ「 (長い間) …火の鳥は、望みをかなえるわ、ゴドー、あなたの力で! でも… お別れよ… すばらしいゴドー」 ゴドー「オルガ、きみも素適だ。きみは世界一の友だちだった」 と、いい終わるや、ゴドー、ガクッとオルガの肩にくずおれる。 しっかりとゴドーを支えて立つオルガ。 二人の足もとに寄せては返す波が、くだけている。 渚に立つ二人の姿が小さく見える。 島の全景が、暗い大洋上に見える。 空。 雲が切れて、星のまたたきが見える。 渦巻いて裂け目が、ガスを止め、赤光と熱気をおさえる。 火山。流れ下っていた溶岩の輝きがスーッと消え、煙もなくなる。 廃櫨と化した都会の上空。雲や霧がゆっくり流れ去り、晴れ間に星が輝き出す。 黒々としたビル街の影を落とす水面に、星がゆれながら、うつりはじめる。 逃げまどい、地に伏していた人々が、よろよろと起き出して、天をあおぐ。 乳飲み子を抱え、幼児を従えた若い母親がおそるおそる空を見上げている。 星明かりのなかに、茫然と空を見上げるたくさんの人々の姿。満天に星をきらめかせた夜空をあおぐ群衆たち。 73. 南海の小島の砂浜・夜明け前 オルガ、自分もゴドーの傍に寝転ぶ。 いくばくかの時を経て。 オルガの体から光がでて、光の玉となり、翼がはえて、羽ばたき、空高く舞い上がってゆく。 砂浜に横たわるゴドー。傍のオルガは、元の焼け焦げた姿になっている。 ゆっくりと寄せては返す波。 と、ゴドーの亡骸が輝きはじめ、細かい光の粒にわかれ、星のようにキラキラと光って縮まる。光が少しずつうすれて消えてゆく。 砂の上に赤ん坊が転がっている。声をたてて泣き出す赤ん坊。 と、傍で、夜明け前の星空をバックにゆっくりと起き上がるシルエット。 しばらく、じっと星を見ている。 若い女である。 女、ちょっと自分の手を見て、赤ん坊に気づき、体をかがめて抱き上げる。 赤ん坊を抱いて立ちあがった女、空をあおいで、ゆっくりと歩きはじめる。 砂浜に足あとを点々と残して、はるかに歩み去る女。 その頭上高く、夜明け前の空に、ひときわ強く、十字の光芒をもって、光り輝く星。 水平線のかなたに、陽光のきざし、みるみる明るくなる空。光を弱めてゆく星。 (完) |